#お前の描くこのCPが見てみたい②【タグお題】



著:結城隆臣




刀剣乱舞の二次作になります。
タグお題です。




こぎさにです。リプありがとうございました。
流血・暴力的表現が含まれますご注意ください。




※刀剣乱舞の世界観の自己解釈と、マイ設定があります。
※史実に忠実ではありません。
※いろいろ都合よく解釈しています。ご注意ください。














一人の女童がいた。




ガリガリにやせ細り、ぼさぼさの黒髪は顔までかかって隙間から見える目には怪しげに光がともっている。
腕や足には青いあざが複数、そこかしらに擦り傷や切り傷を作って、大きさの合わないぼろ雑巾のような服を身にまといたたずむ。




小狐丸が遠征で飛んだ2016年、平成の時代のとある薄暗い稲荷神社の前にその子供はいた。




憐れに思って眺めていると、パッと視線が合った気がした。
不思議に思って首を傾げれば相手も同じように傾ける。
反対に傾げれば例にならって。
しゃがんで視線を合わせてみれば、女の童が片足を引きずるようにしながら近寄って、正面に座り込んだ。
微笑むとぎこちなく笑顔を作って、瞳を輝かせながら見つめ返してくる。




「あなたは、おきつねさま? おおきくてきれいね」








政府からの通達を手に、小狐丸は審神者の部屋の扉を開けた。




浄化を進める香がむっとするほど焚かれた部屋で審神者が式神一枚一枚に霊力を注ぎそれを宙に放っている。




「ぬしさま、いい加減にしてください。霊力を使い果たすおつもりですか」
「……アイツら絶対許さない。私が何歳から審神者をやってると思っているの……小娘がと馬鹿にして。一ヶ月でこの辺りの遡行軍一体残らず蹴散らして見せるんだから」
「ぬしさま……」
「うるさい!」




小狐丸の方を睨み付けるように審神者が振り返る。
瞬間、辺りに漂う式神が敵と認識したのか、一斉に小狐丸の体に張り付いた。




「あ、あー……もうせっかく作ったのに……」




疲労と落胆の色を浮かべて審神者が項垂れる。
その様を申し訳なく思いながら、小狐丸は審神者に封書を手渡した。




「何これ」




怪訝そうな表情で、包みを開く審神者に向かって、小狐丸は笑顔を作った。




「もう全力で戦う必要はないですよ、ぬしさま」
「え? ……あ、本当? 本当に?」




パッと目が眩むほどの笑みでこちらを見やる。




「この地域で一番の戦果を挙げたのはぬしさまです。昇格の知らせと、暫しの休暇の通知、そして次の地域への任が届いています」




次の瞬間、審神者が嬉しそうに飛び跳ねて小狐丸の体に抱き付いた。
思わず尻餅をついてそのまま後ろにひっくり返る。




「やったーやった! やったわ! 小狐丸! これであいつらも真っ青よね! ってなんで倒れてるの?」
「何でと申されましても。ぬしさまも大きくなりました故、勢いよく抱き付かれますとたとえ私でも押し倒されてしまいますよ」
「ちょっとそれってどういう意味」




ムッとした表情をして、細く長い指で小狐丸の鼻をつまみ上げる。




「痛い、痛いですよ。ぬしさま」
「小狐丸は小狐なのにどうしてこんなに大きいのか」
「それは以前に説明した覚えが……」
「いーの! それよりここに政府からボーナス出るって書いてあるから、明日万事屋行こう! 小狐丸。デートしてよ!」
「デートでございますか」
「うん。目一杯オシャレしてね」








「何だ、このぼろ切れみたいな子供は」




「ぬしさまの跡継ぎの件で捜して参りました。能力は分かりませぬが、視覚で我ら付喪神を認知しております」




「ふん、ならばよし。……わしはもうすぐ死ぬだろう。早急に使えるようにしろ。お前が見つけたんだ、教育はお前がやれ、良いな」




「かしこまりました」








「万屋って何でもあるよね、遊園地みたいで楽しい」




子供のように駆け回る審神者を追いかけながら、小狐丸はその眩しい笑顔に目を細めた。
出会った頃は傷だらけでガリガリの小さな小さな女童であったが、今ではそんな過去も分からない程に美しく育った




ただ、一点だけ変わらないのは片足をいつも引きずっていることだけ。




いつぞや聞いてみたが骨を折ったのかもしれないとのこと、医師に見せたことがないのでわからないとも言っていた。
どのような環境下で育ってきたのか、想像するだけでぞっとする。




毎日の審神者としての修行も苦しいが辛くはないと目を輝かせていたあの頃。
その傍らにいつもいて成長を見守ってきた小狐丸としては、審神者の今の姿がとてもとても輝かしいものに見えるのだった。




「小狐丸! 早く! 次はあれを食べてみましょ!」
「ぬしさま、私はもう食べられませぬ」
「大きいのに小食ね! こんなにおいしい食べ物がたくさんあるのに……!」




くるくるとあちらこちらへと進む審神者。
疲れた小狐丸は木陰の椅子に腰かけて、その姿を眺めていた。








「めいれいなんてできない!」




「出来ないではありません、やるのです」




「どうして? どうして? こぎつねまる。だってあんなにケガをしてかえってきたのに。いたいおもいしてまでどうしてたたかうの」




「それが私に……私たち刀剣男士に課せられた使命ですから」




「いやだよ、けがっていたいんだよ、すごくいたいんだよ。わかるもん、いたいのすごくわかるもん、いやだよ。このあいだだってうぐいすのおじいちゃんとみかづきのおじいちゃんがうでやあしをなくしてかえってきたでしょ? わらってたけど、あれってすごくいたいんだよ」




「ぬしさまのそのお言葉だけで我々は十分でございます。それに、私たちの怪我はすぐに治ります故。……さぁ、私に出陣の命を。それが審神者の仕事でございます」




「いやだよ……!」








喧騒にハッとして気が付けばどうやら自分は少し眠ってしまっていたらしい。
小狐丸は首を振って周囲を見渡した。
審神者の姿はなく、気配も全く分からない。




彼女は見た目こそ乙女にはなったが、中身はまだまだ伴わない子供だ。
嫌な予感がして駆け出す。




恐らく眠ってしまったのは5分か10分程度のはずだ。
立ち寄りそうな店を片っ端から覗いて見るも、何処にも姿がない。




「ぬしさま……」




小狐丸は呆然とその場に立ち尽くした。
このままでは本丸には帰れない、皆に何て説明すれば良い?




ひとまず元いた場所へ戻ろうとした時、小さな少女の影が小狐丸の手を引いた。
片足を引きずるその姿はいつかの日の審神者そのもので……。
小狐丸はわらにもすがる思いでその影を追った。








「小狐丸!」




「なんでしょうか、ぬしさま」




「今日は小狐丸が誉をとったのでしょう?」




「はてさて? そんな記憶はありませんが」




「いいの! 今日は小狐丸が誉れの日なの」




「そうですか」




「それでね、これ! 私が作ったんだけどね、櫛、あげる!」




「ぬしさま……これを、小狐めに?」




「うん! 綺麗な毛並みを整えるのに使ってね!」




「嬉しゅうございます、ぬしさま」




「えへへ、大好きだよ、小狐丸」








影は路地をいくつか抜けて、遊廓を通り見知らぬ古びた店の前で消えた。
そっと扉を開けば朱に染まった室内と、むせかえるような香の薫りが漂い、頭がクラクラする。




店内に入ると痩せ細った小柄の男が現れた。




「おやコレは刀剣男士さま。こんな所にお出でとは」
「主がこちらに世話になっている故、迎えに来た」
「はあ、まだ今日は店開きをしてはおりませんが、おかしいですね」
「上がるぞ」
「まだ準備中ですから、お待ちくだされ」




男の静止を無視して女が並ぶであろう広間を開けると、横たわる審神者を見つけた。




「ぬしさま!」




駆け寄り抱き上げる。
虚ろだが審神者がゆっくりと手を伸ばし小狐丸を抱きしめた。




「ああ、その娘子でしたか。先程保護したのですよ」




男が後方から覗き込む。




「保護だと? あらぬ事を言いおるわ。品にするつもりだったのだろう?」
「真逆。こちらには刀剣男士様のお客も多くいらっしゃるのですよ、審神者様だと知っていたら、品になど致しませぬ。すぐにお返しいたしますよ。しかしながら、本当に貴方様の主殿だと証明できますかな? でなければお帰りいただきたく」
「なにを」
「こちらもただで保護したわけではございませんからね」




小狐丸は刀を掴んで振り返った、だがしかし、男が飛び退き指笛を鳴らす。その音と共に黒服の男達が小狐丸と審神者を囲った。




「上客じゃ、奥へお連れしろ!」








「ぬしさま?」




「ぎゃあ! こ、小狐丸! 突然部屋に入ってこないでよ!」




「これは、失礼しました。何をされていたのですか?」




「な、何だって良いでしょ? 私だって女の子なんだから、秘密の1つや2つ……」




「おやおや」




「……次郎太刀の請け売りよ!」




「だと思いました」




「いいから、出て行って!」




「わかりました、わかりましたとも」




「次からはノックするか、開ける前に声をかけてよ!」




「では、その様に致します」








奥のお座敷に押し込められどれくらいの時が過ぎただろうか、すっかり意識を取り戻した審神者が申し訳なさそうにうなだれながら、小狐丸の袖を握りしめている。




「美味しいお菓子があるよって聞いて、ついて行ってしまったの……ごめんなさい」
「いえ、目を離した小狐めがいけなかったのです。ぬしさまがご無事で何よりでした」
「この後どうなるの?」
「分かりませぬ。先程はぬしさまに意識がなかった故、身の安全を優先しましたが、今ならば」




障子を薄く開き、外の様子を窺う。
店が開店したのか、離れた所から賑やかな声が聞こえた。
部屋の周囲には人の気配は無い、逃げるならいまだ。




「逃げましょう。走れますか、ぬしさま」
「うん」




立ち上がり、小狐丸の手を審神者がとる。
小狐丸は外に出ると庭を抜け、審神者を抱えて塀を乗り越えた。




騒ぎは直ぐに起きた。
逃げたことが知られ、後方より怒声が聞こえる。




小狐丸は審神者背負うと走った。




花街を抜けた辺りで審神者が小狐丸の肩を叩いた。




「向こうに三日月の気配がする!」
「誠ですか、ぬしさま。それならば」




小狐丸は審神者を地面に降ろして刀を抜いた。




「ぬしさまは急ぎ宗近の元へ、私はここで追っ手を食い止めます」
「でも、でも、小狐丸!」
「急いで。必ず戻ります故」
「っ……約束だよ!」




審神者が走り出したのを見て、小狐丸は来た道を逆走し始めた。




「さて、死にたい者からかかってくると良い!」




スラリと鞘より抜かれた刀身が月明かりに輝く。
小狐丸はそれを翻すと、向かってきた敵へ振りかざし赤い花弁を宙に舞わせた。








「小狐丸がね、1番好きなの」




「私を助けてくれたの。痛みしかない世界から助けてくれたの。あの日、お狐様に呼ばれた気がして、神社に行ってよかった」




「審神者の仕事は大変だよ、でも、あそこに戻るよりはマシ。でも、みんなを傷つけるのは嫌だなぁ……」




「小狐丸、まだかなぁ。遠征に行っちゃったから、数日会えないのは知ってるけど寂しいよ」




「どれくらい小狐丸が好きなのか? うーん、考えたこと、ないなぁ。でも、コレは分かるよ、小狐丸が居なくなったら、寂しくて寂しくて消えたくなると思う」




「ふふ、これ、小狐丸には言わないでね、恥ずかしいから。私の、私だけの想い、私だけの気持ち、私だけの秘密なんだから」








「主!」
「三日月! ごめんね、ごめん」
「無事でよかった。主1人か? 小狐のはどうした?」
「私を逃がすために残って戦ってる。お願い、助けて!」
「戦って? それはマズい、今剣、小狐を!」
「りょうかい!」




汗だくになりながら足を引きずって走ってきた審神者を抱き留め、三日月は空を仰いだ。
時刻は夜、太刀である我々ではどこまで戦えるのであろうか。




ポツリポツリと事のあらましを語り始めた主に耳を傾け話を聞く。




三日月は自分の中に沸いた予感が当たっていたことを知り、助けに来て良かったと胸をなで下ろした。




小狐丸と審神者が出掛けて、夕方前には帰ると聞いていたのに、一向に戻らないことに嫌な予感を覚え万屋の有る街へ来てみれば……という流れである。




「小狐丸大丈夫かな……」
「三条の強者の一人だ、大丈夫だろう。それに、奴の強さは主も知っておろう?」
「うん……でも、もう分からないから……」




震える小さな肩を三日月は抱きしめると今剣が消えた先の方を見つめた。




小狐丸の気配はまだしているが、同じ刀派だから分かる程度の弱いモノとなっている。
後は今剣が間に合うのを祈るばかりだ。




三日月は力になれない自分を不甲斐なく思い唇を噛み締めた。








「ぬしさま? 好いていますよ。当然ではないですか」




「そう言う話しではない? ではどう言う……」




「なっ、何をおっしゃる……」




「はぁ……。ええ、好いておりますとも。それははもう、あの瞳に捕らえられた日から……」




「おかしいですか? 私もそう思います。けれど、私にはあの瞳が忘れられぬのです。それにこの櫛も。古くなった捨てろとぬしさまには言われましたが、捨てられるものですか。ずっと大切にいたしますよ」








目を覚ますと、小狐丸は離れにある審神者の部屋にいた。
首を動かし、顔を上げれば涙を目に浮かべている審神者と目が合った。




「よかった! 手入れしても起きないから、もうダメだと思って……」
「ぬしさま……」




そうか、助かったのか。
小狐丸はほっとため息をついた。




あの日、最初はよかったものの、暗闇に辺りを囲まれて手も足も出せなくなり、最終的に背を斜めに斬られて地面へともたれ込んだのまでは覚えている。
死んだと思った、審神者の元へ帰れない自分を許して欲しい気持ちが溢れ、悔しさに地面を握りしめて……。




何故助かった?




そう思いながら起き上がると、枕元に粉々に散った櫛が包み紙の上に置いてあるのに気付いた。
手に取れば、審神者がポツリと語りだす。




「お守り代わりに爆ぜたみたい」
「これが……? そうか、そうでしたか」
「ずっと持っていてくれたんだね」
「当たり前です。私の宝物ですから」




包み紙で覆い、ギュッと握りしめるとその手の上に審神者がそっと触れてくる。




「小狐丸、あの……あの……。こんな時に言うものじゃないかも知れないけど、私、小狐丸のことが好き」
「ぬしさま?」
「私、連れ去れた時、凄く怖くて、小狐丸にもう会えないかもって思った。助けに来てくれて嬉しかったけど、逃げるとき、小狐丸が死んじゃうと思って怖かった。この思いを伝えられないままお別れなのかなって。ずっと秘密にしようと思ってたけど、言えないままお別れなんていやだなって」
「……ぬしさま」
「私は、小狐丸が好きです」




真っ直ぐに投げかけられたら視線を小狐丸はまぶしく思った。
初めて出会った時と同じ、輝く瞳が美しい。




「私も、ぬしさまの事は好いておりますよ」
「えっ……?」
「一人の女性として好いております」
「嘘……」
「私が嘘を付いたことがありますか?」
「ない!」




次の瞬間、審神者が嬉しそうに飛び付いてきた。
またも受け止めきれずに後方に倒れる。




「何でまた倒れてるの?」
「ぬしさまを抱きしめるためですよ」




小狐丸はそう言って審神者を抱きしめた。








「ねえ、あなたは、おきつねさまなの?」




「私は小狐丸、刀の付喪神にてございます」




「かたな!」




「はい」




「だからこんなにきれいなの? ねえ、おきつねさまのおうちはどこ?」




「気になりますか?」




「いってみたい」




「ここには帰ってこられなくなりますよ」




「いいよ、だれもこまらないもの」




「……そうですか。――おや、雨が……」




「はれてるのに、へんなの!」




「では濡れてしまう前に参りましょうか」




「うん!」