演練【交流作品】



著:結城隆臣




他の本丸の創作審神者様との交流作品になります。




刀さに・流血・暴力的表現が含まれます。ご注意ください。




※刀剣乱舞の世界観の自己解釈と、マイ設定があります。
※史実に忠実ではありません。
※いろいろ都合よく解釈しています。ご注意ください。













「右だ!」
「いけぇええ!!」
「でいやっ!」




威勢の良い掛け声と、剣戟の音が響く。
ここは審神者と刀剣男士のために与えられた演練場である。




日々の鍛錬のために毎日開放されている場所で、審神者であればだれでも利用することができる。
対戦相手はその日の参加者の中から練度の近いものが選ばれ、組まれる仕組みだ。
装備は真剣から木刀、竹刀と任意に選ぶことができ、防具もそれぞれ自由に選べる。




ここに央海は刀剣男士を引き連れ訪れた。
審神者になってからなんだかんだで頻繁に来ている気もする。




「愛染さん!隊長なんですから突出しないでください!」
「くっそう、暴れられると思ったから大将になったのに……!」
「大将とられたら負けるんだから後ろになるに決まってるじゃないですか!」
「あーあ、だから愛染君に隊長は務められるのかなぁ……って言ったのに、聞かないんだから……」
「……ようは、愛染が倒される前に相手を倒せば良いだけのことだろう?」
「あっははは!確かにそうだ!それじゃぁ、さっさと終わらせようか!」




演練場の本丸から戦う刀剣男士を眺める。




メンバーは、前田藤四郎、愛染国俊、鯰尾藤四郎、にっかり青江、山姥切国広、鶴丸国永の6人だ。
剣道を習っている身としては、同じように刀をもってあの中に飛び込みたい衝動にいつも駆られる。
チャンバラだけなら本丸で刀剣男士とすることもできるが、それとこれとはまた違う。




「っしゃー!ぶっとばーーーす!」
「これで最後だ!」




それぞれが装備された刀装に指示を飛ばし小隊を動かして戦う。
戦線は優勢。勝ちは間違いないだろう。




満足げに央海は頷いた。








「あるじさまー!ここがえんれんじょう?みたいですー」




ニコニコと微笑む今剣に連れられて、椿は演習場を訪れた。




椿の後ろにはぞろぞろと刀剣男士が数人―――加州清光、薬研藤四郎、へし切長谷部、乱藤四郎、同田貫正国が続く。
今剣や乱藤四郎は初めてくる場所に瞳を輝かせているが、長身の三人…特に加州清光とへし切長谷部はお互いを意識し合っているのかピリピリとした空気をまとっていた。
周囲にもわかるくらいの雰囲気で、椿も複雑な心境を抱いてはいた。
だが、そればかりに構っている余裕もなく、薬研藤四郎にフォローを頼んでいる状態であった。




「演練か……」




ぽつりと加州清光がどこか心ここにあらずの体でつぶやいた。




「訓練とは言えど手は抜きませんよ。主に勝利を」
「当然だ」




それを見た、へし切長谷部と同田貫正国がずいっと椿の方に踏み出す。




「あ、当たり前じゃん!」




焦ったように加州清光が二人の間を割りながら、椿の前に身を乗り出した。
椿は思わず圧倒され苦笑してしまった。




「ええと……」
「……主、がんばるから俺のこと見ててね」
「は、はい。もちろんです。清光」




その様子を後方で薬研藤四郎が内心ため息をつきながら眺めた。
昨日、この三人が功を競って暴れに暴れ、隊の統率が崩れて大変なことになったのだ。
最終的になんとかなったからよかったものの、一歩間違えていたらどうなっていたかわからない。
その場で注意はしたのだが念のためと、今日演練にて主である椿に見て指摘してもらおうと思い、やってきたのだ。




本日近侍担当の今剣や副近侍の乱藤四郎には少々酷なことをさせてしまっているのではないかとは思う、だがそんな余裕などない。




「主ー!あっちで手合わせしているよー!」




乱藤四郎の声に椿が振り返る。




「ちょうど良いですね。どのようにやるのか見てみましょう」
「じゃぁ、あるじさま。そのあいだにぼくはとうろくてつづきをしてまいります」
「はい、よろしくお願いします」




一同は乱藤四郎が見ている演練場の方へと向かう。








「随分と本格的にやるんだな」




感心しながら薬研藤四郎は目を細めた。




眼下に広がる野球場ほどの広いエリアに、刀剣男士と刀装から呼ばれた小人たちが並んで戦っている。
東西に分かれ、それぞれ体のわかる位置に東が青、西は赤の布を巻き付け、陣を成す。
本丸に当たるであろう場所には審神者が立ち、何やら指示や激を飛ばしたりしていた。




「あっちの審神者の俺が押されてる……。俺じゃないけど、なんか複雑……」




加州清光が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、うーと唸る。




「どうやら、こちらの方々の方が練度が高いようですね」




椿が加州清光の隣に回り、慰めているのかそっとその腕に触れる。




「強そう……」




その隣で乱藤四郎がしゃがみ込む。
へし切長谷部と同田貫正国も真剣な表情で演練を見ていた。
その時、後ろからとっとっとと足音が聞こえてきた。




「ただいまもどりました」
「今剣、おかえりなさい。登録ありがとうございます」




薬研藤四郎が振り返ると、今剣が一枚の用紙を手に立っている。




「はじめてなので、いっかいだけのエントリーにしてみました」
「それで良いと思います。対戦相手はどなたになるのでしょう」




すっと、今剣が椿に向けて用紙を差し出す。
それを微笑みながら椿が受け取ると用紙に目を落とした。




「それにかいてあるのですが、みやぎってなまえのほんまるのところになるみたいです」
「……みやぎ?」
「……それって今目の前で戦ってる所じゃねぇか?」




ふいに同田貫正国が口を開いた。




「どちらですか?」




今剣と椿が演練場をのぞき込む。




「こっち側の……ほら、審神者がいる所に旗があるだろう?そこに書いてある」
「見えました……勝っている方の方々ですね」
「えっ!?演練って同格同士でやるんじゃないの?俺達より格上に見えるけど……」




加州清光が驚いた顔で主の用紙をのぞき込む。
同じように薬研藤四郎も見てみた。




「確かにこれには同格……とあるから、きっとそうなんだろうな」
「やれるかな?」




乱藤四郎が不安げな表情に変わる。




「敵が何であれ、斬るだけだ」




不敵な笑みを浮かべ、へし切長谷部がポツリと呟いた。








練習試合が終わり、央海達はしばしの休憩時間を過ごしていた。




「次の対戦相手は決まったの?」




スポーツドリンクを片手に、鯰尾藤四郎が央海の持つ書類を覗き込む。




「うん、試合中に決まったっぽい。演練初参加のとことだねー」
「ほう……」




にっかり青江もアイスをかじりながら横から覗いてきた。




「それはそれは楽しみだね。で、次の隊長は誰にするんだい」
「んーそーだねー。鶴丸さんにしてもらおうかなー」
「おっと!俺か!」




飛び上がるように立ち上がり、腰に手を当て胸を張る。




「良いねぇ。驚きの結果を君にもたらそう」




思わず央海は苦笑した。




「うん。まぁ負けなければいいよ」




それを見た鶴丸が唇を尖らせながらあぐらをかく。




「つれないなぁー」
「対戦相手の面々はどなたになるんでしょうか?」
「強い奴がいいな!」




その鶴丸の後ろから前田藤四郎と愛染国俊が顔を出した。




「えーと……今剣、乱藤四郎、薬研藤四郎、へし切長谷部、加州清光、同田貫正国、かな」
「……構成は俺達とたいして変わりはないな」




少し離れたところで座っていた山姥切国広がいつの間にやらそばに来て、フードを直しながら腰かける。




「鶴丸さんに同田貫正国を抑えてもらって、その間に他を片付けて……」
「いや、その役目は僕がやろう」




にっかり青江の声にみんなの視線が集中した。




「青江が?」




鶴丸国永が驚いたように目を丸くする。




「アレはまっすぐ受け止めたら危ない刀だよ。十中八九、力押しで来るだろうから、僕が受け流しながらいなして時間を稼いだ方が安全さ」
「ほっほう!頼もしいな!じゃぁ任せてしまおう」




ばしんと鶴丸国永がにっかり青江の背をたたいた。
にっかり青江は痛みで顔をゆがませながらも不敵に微笑む。




「他はどうする?」




鯰尾藤四郎の声に山姥切国広が顎に手を当てた。




「……俺と鯰尾でへし切長谷部と加州清光を抑えよう。短刀の始末を鶴丸と前田、愛染に任せる」
「うっし!任せてくれよ!」
「わかりました」
「オッケー!」




「じゃぁ、それで行こうか」




一同が立ち上がったのを見て、央海は用紙をポケットにしまうと口を開いた。




「次も勝つよ」
「当然」




鶴丸国永がウインクしながら央海を引っ張った。








「なんだぁー!?」




戦闘開始の鐘が鳴った直後、愛染国俊が叫んだ。




それもそのはずである。
鐘の音と同時に、対戦相手の加州清光とへし切長谷部が鶴丸国永めがけて走り出したのだ。
一歩遅れて同田貫正国も続く。




「これは鶴丸さんが隊長ってばれているのかな?それとも太刀だから先に倒したいのか……」
「いやあ!モテる男も悩みものだな!」
「冗談言ってる場合か」
「分かってるって、山姥切の」




後方に下がった鶴丸国永の前に素早く山姥切国広とにっかり青江が立ち、刀装を放って陣を形成する。
その左右に鯰尾藤四郎と前田藤四郎が並び、愛染国俊が遊撃として躍り出る。




「やれやれ、短刀達が引き離されてまぁ。隊が分かれてしまうよ」




にっかり青江が苦笑しながら木刀を構える。




「開始前、揉めているようにも見えました。何があったのか、作戦なのかは分かりませんが」
「確かに揉めてたね。短刀達の様子を見ると、作戦じゃない……のかな?あっちの審神者は何やってるんだろう?」




前田藤四郎と鯰尾藤四郎が顔を見合わせる。




「とりあえず、鶴丸さんさえ無事なら大丈夫だから、臨機応変にやろうか」
「そうだな。俺と青江で鶴丸を守る。3振りは短刀を頼む」
「わかった」
「俺も非力な姫じゃないし、負けてやるつもりもないから、安心して戦って来て良いぞ」
「はい!」




次の瞬間、へし切長谷部と加州清光が飛び込んできた。
が、2振りの木刀は山姥切国広の木刀にしっかりと押さえつけられ、同田貫正国の前にはにっかり青江が立ちふさがった。




その横を通るように前田藤四郎と鯰尾藤四郎が駆け出す。
遊撃の愛染国俊も後から追いかけてくる3振りの短刀の後方に回るべく向かう。








「わわっだめですよ!もどってきてくださいー!」




今剣が大きな声でへし切長谷部と加州清光、そして同田貫正国へ指示を出す。
だが、聞こえていないのか3振りはあっという間に敵陣地のエリアに飛び込んでしまった。




慣れない近侍の仕事、初めての演練での隊長役、そして、ずっといがみ合っているへし切長谷部と加州清光の態度に、疲れの色を見せていた今剣が一瞬泣きそうな表情になったのを薬研藤四郎は見逃さなかった。
隣にいる乱藤四郎も気付いたのか心配そうに今剣を見つめる。




「ったく……」




薬研藤四郎は木刀を握りなおした。




「このままでは分裂しちまう。旦那達を追うぞ」
「う、うん」




薬研藤四郎たちは急いで3振りの元へと向かう。







それに気付いたのは央海が先か、椿が先か。




山姥切国広とにっかり青江の防衛線に妨げられ、なかなか鶴丸国永に手が出せないでいる3振りの後ろで必死の攻防を繰り広げていた短刀の3振りのうち、乱藤四郎が倒されてしまった事に。




装備してきたはずの刀装はお互いに殆どが失われ、鶴丸国永の刀装のみが全て健在だった。
刀装が無くなれば身1つで戦う以外にない。




乱藤四郎の前に立ち塞がった同じ流派の彼は、乱藤四郎より大きな鯰尾藤四郎だった。




打刀たちは相変わらず功を競ってこちらを見ようとさえしない。
押しに押されてどうしたら良いかわからない、けど相手が向かってくるなら戦うしかない。




しかし戦線の乱れたこの状況で戦いに集中できるだろうか。波打つ心は油断と隙を見せる。
荒れ果てた陣形、隊長の指示は全く通らず、頼みの綱もさえも消え失せ、助けには誰も来てくれない。




そんな中で、隊長を守っていた1振りが倒されてしまったとあれば、決着がつくのも時間の問題と思われた。
だが……。




「そうやすやすとやらせるものか」




薬研藤四郎は今剣の腕を掴むと一気に目の前の前田藤四郎と鯰尾藤四郎の間を駆け抜けた。




「旦那達!乱がやられた!いい加減目を覚ましてくれないか!これじゃ主に顔向けできない!」




声に反射的に振り返ったのは加州清光だった。
木刀を回して薬研藤四郎らを追ってきた鯰尾藤四郎へ技を繰り出す。




「やるじゃない……」




鯰尾藤四郎があわやの所でかわし、冷や汗を流す。




「まぁね」




加州清光がニヤリと笑った。








央海は試合を見ながら相手側の誰が隊長なのかを見極めていた。
鶴丸国永に向かっている3振りの中にいるのか、はたまた短刀の誰かなのか……。




試合が進むにつれ、やがてそれは顕著に表れてきた。
薬研藤四郎が今剣をずっと庇っているのだ。




「大将首は今剣だ!」




央海は叫んだ。
その声に前田藤四郎と愛染国俊が反応し、戦況がまた一段と変化する。




加州清光が鯰尾藤四郎を打ち負かし、同田貫正国はにっかり青江にすっかり翻弄され手も足も出ない。
へし切長谷部は加州清光が離れたことで鶴丸国永と山姥切国広を相手にせねばならなくなり重症相当のダメージカウントを受ける羽目になった。
薬研藤四郎は今剣を後ろに抱え、前には前田藤四郎と愛染国俊がいる状況で身動きが取れない。




「っく!」
「残念だったな!」




次の瞬間、鶴丸国永によってへし切長谷部が倒された。
それを見た加州清光が焦った面持ちで鶴丸国永の方へ木刀を繰り出す。
山姥切国広が急いで助けに入ろうとしたが、鶴丸国永が手を振ってそれを止めた。




「山姥切! 隊長を仕留めてこい! この加州清光は片腕でも余裕で倒せそうだ」




鶴丸国永のその言葉は加州清光の逆鱗に触れた。








「……もう一度言ってみろ!」




加州清光が鶴丸国永に向けて木刀を振り下ろすもたちまち盾を持った刀装に囲まれ、体の動きを封じられた。




「全く、なってないなぁ、君」
「何を……」
「真っ赤な顔をして、まるで子供のようだぜ。自軍をよく見てごらん。陣形はぐちゃぐちゃ、隊長はおろおろ。そして、加州清光、君は何をそんなに焦っている? さっきのへし切もそうだったが、隙だらけだぜ」
「……っ!」
「こうなりゃ君達は俺達から見れば絶好の的だ。よくそんなので戦場に立てるものだな。驚きだぜ!」




ニヤニヤと笑いながらワザとしゃくに障るような口ぶりで加州清光を煽る。




「……うるさい、うるさい!」
「そうだなぁ。まだ先の戦の加州清光の方が強かったぜ」




カッと加州清光の頭に血が上る。
がむしゃらに突き出した加州清光の木刀が鶴丸国永によって天高く打ち上げられた。




「もう少し骨があるかと思ったんだがな。残念だ」




踏み出し、すれ違うようにしながら、鶴丸国永は加州清光の体を木刀で打ち倒した。
その間に前田藤四郎と愛染国俊によって薬研藤四郎が倒され、今剣は山姥切国広にのど元に木刀を突き付けられて演練は終了した。








「お疲れ様」




央海は演練場の本丸に戻ってきた刀剣男士達にスポーツドリンクとタオルを手渡しながら迎え入れた。




「何だかはっきりした手応えのないところだったなぁ」
「ずっと混戦状態でしたね。駆け引きも無かったですし。少々疲れました」




鶴丸国永と前田藤四郎がため息を吐きながら腰掛ける。
央海は刀剣男士達が先程までいた戦場に視線を移した。
まだ相手側の刀剣男士達が残り何かを騒いでいる。
そこに灰色の髪の女性が近付いて――。




「女の審神者なんだなー」
「かわいらしい方ですねー。お話してみたいです」




愛染国俊が片手をおでこに当て眺める。
その横で鯰尾藤四郎がにまにまと微笑んだ。




「派手に加州清光にやられておきながら、流暢な」




つん、と山姥切国広が鯰尾藤四郎が斬られた場所をつつくと、『いったぁああ!』と叫びながら飛び跳ねた。




「やめてくださいよ!ちょっと油断したんですっ!……ああもう、これ絶対痣になってるー」
「でもまぁ、実践では綺麗な戦場はないんだから、こういう戦いも経験できてよかったと思うよ」




にっかり青江が乱れた髪を結い直しながら話す。




「そうかも知れないね」




央海はもう一度視線を演練場に戻した。
相手方の刀剣男士や審神者がちょうど引き上げて行く姿が見える。




「俺達も帰ろっか。歌仙さんがお菓子作っておくって言ってたし、帰って食べようよ」
「良いねえ! 歌仙の菓子は美味いからなぁ」




央海の言葉に鶴丸国永が反応する。
愛染国俊がはいっと手を上げた。




「俺は風呂に入りたい! 汗かいた!」
「人一倍動いていましたものね」
「ったりまえだ! 暴れてなんぼだろうー。あ、主、帰ったら手合わせしねぇ? 物足りなくてさ」
「良いよ! やろう!」
「元気だなぁ君達は。じいさんはついて行けぬわ」
「この時ばかりに年寄りのふりは痛いですよ、鶴丸さん」
「うるさいなっ」




一同は笑いながら帰路へとつく。